『rulEr 』








大佐、
小さく口ごもる。
街中のありがちなスーパーの中で見つけた見知った姿は、真剣な面持ちで色々な価格をメモに取っていた。主に小麦製品。

声を、かけるべきではないような。


「おや、中尉」


そう、思って。
まさに踵を返した瞬間、背に声がかかった。


「大佐…」
「夕飯の買い物かね。」
「ええ、たまの休みですので色々と買い出しを。」

コートの内ポケットに、こそりと小さなメモ帳をしまった瞬間に見えた表紙。
確か、あのメモ帳は。


「大佐こそ…」
「中尉、こんな所で大佐と呼ぶのは止めたまえ」
「…では何と。」
「おや?私の名前を忘れた訳ではないだろう、」


リザ。
と。
低く呼ばれる名は間違いもなく自分のもの。不敵に笑いながら細められた目が見据えるのは私。

あぁ、どうしてこの人は。


「…ロイ、さん…」
「うん、まぁ良いだろう。」


少し納得いかなさそうな、それでいて何となく懐かしそうな顔をして頷く。

あぁ、なんてこの人は。


「…なにをしておいでで?」
「私だってこの街の住人さ。買い物くらいはする。」


苦笑さえ、心に。
そのくせ買い物カゴなんて持ってないし、さっきのメモだってきっと。


「晩ご飯のメニューがお決まりでないようですので、簡単でよろしければお招きいたしますが。」
「…あぁ、よばれよう」


庶民の物価を気にして部下に気を使って咄嗟の言い訳も巧くて。

本当にどうしようもない。


「ハヤテ号が待ってるので手早くすませますね」
「構わんよ。」
「では20分後に入り口でお待ちしております。」


少し見開いた目は深く漆黒が広がり、その中には吸い込まれたようにくっきりと私が映る。

破顔して分かったと頷く。


「私は本当に良い部下を持った」
「光栄です。」


あぁ、なんて優しくて残酷な、



早く材料を買わなければいけない。









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三枝しあん様から、「書いて下さいバトン」で書いて頂いたロイアイです!
あへー…幸せです。なんていうか、ジャンル外にもかかわらず書いてくれて、それでいて二人をすごく理解しているというか…素晴らしいですね!!二人の関係が絶妙です!!本当ありがとうしあん!またちょうだいね!