るか様から「書いてほしいバトン」で書いて頂きました。


越えてはいけないラインを見誤ってはいけない。
そのラインを踏み越えてしまったら、おしまいだと思った。




書類の山に埋もれて机に突っ伏す大佐の姿を見つけて、また仕事を放棄して寝こけていると出そうになった溜め息を飲み込んだ。ここのところ妙な事件が立て続けに起きていて疲労困憊しているのだろう。上下する背中を見て、甘い、と頭の片隅で思いながら、風が強く吹いている窓を閉めた。
ご丁寧に書類全ての一番上におもしが置いてある辺り性根が腐っていると思った。どうしようもなく意識を手離したわけではなさそうだ。

一歩近付くと大佐の髪が一束さらりと滑り落ちた。黒くて細い髪の毛は柔らかそうで、触れたい、とふとした瞬間よく思う。思って、気付いて、どうしたらいいかわからなくなる。距離はとても近いから思い留まるのにいつも酷く神経を磨り減らした。

いつもとても近くて、近くにいる自分を良しとするこの人は、絶対自分から距離を縮めようとしない。
伸ばしかけた手をやっとの思いで引っ込める。触れたい、とやっぱり思った。

見誤ってはいけない。越えて良いラインと、良くないラインを。






「じれったいな」


びくりと体が揺れる。小さな笑い声ゆっくりと顔をあげたその顔は、不敵にも見えたし慈しむようにも見えた。真っ黒な瞳に心臓がそのまま捕まった。
触れなくて良かったと思いながら逸る気持ちを必死に堪える。ああ、なんて嫌な人なのだろう。


「たい、さ」
「ほんの少し手を伸ばしただけで、この私を捕まえられるんだぞ」
「…ご自分を見くびりすぎです。私が捕まえておける、人じゃないでしょう」
「そう思うか? ならば試してみればいい」

リザ、と目を細めてこれ以上ないくらい甘く放たれた自分の名前に眩暈がした。本当に意地の悪い男だ。誘うように手を軽く自分に差し出してやっぱり少し笑った。

越えて良いラインと越えてはいけないライン。それはとてもあやふやで曖昧で頼りない。それを越えるのは、ほんの一瞬で、ほんの一歩で、酷く容易いことのように思えた。容易いことだからこそ危ないのだ。
これは邪魔になる感情だと思った。絶対に、届けてはいけないものだと思った。だけど見て見ぬふりをしてやりすごしていても少しずつ胸を侵蝕していく。
それを誤魔化す為に、出来るだけそっけない溜め息になるよう息を吐き出した。


「…この書類、今日中に終わらせて下さいね」
「………この、山をか」
「ええ」
「…相変わらず君は手厳しいな、中尉」


だってこの人は自分からラインを越えようとはしない。そしてもし自分がそのラインを越えてしまったとしてもきっと余裕の笑みで受け止めるのだろう。だからずるい。ずるくて、性根が腐っていて、意地が悪い、嫌な人だ。溺れてしまうのは危険すぎる。捕まえるのではなく捕まるのだ、ずっと。







---- 両思いでも気付かないふりをする二人くらいが好き。完全にハッピーエンドが手に入るまで我慢する中尉をニヤニヤしながら見ている、ようで何気に我慢してる大佐みたいな感じの距離感が良い。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------↑るかのコメント

あああああああああもぉおぉおおぉおぉおおたまらァアアアアアアアアん!!!!!!!!!!!!!!!!!!ニヤニヤがとまりません!!なんでこんな素敵なものが書けるんだろう本当尊敬しますハアハアたまらん!!この二人の距離感が大好きです。どうしていいかわからない中尉を余裕で眺める大佐。んで余裕のようで本当は余裕じゃない感じ。それをふと垣間見せられるともう…撃沈します…(笑)
私は結構いつも、「ハアハアリザちゃァアん」って感じなんですけど(きもい)、これには大佐にノックアウトしました。大佐かっこいい…!
こんな素敵なロイアイをありがとうありがとうありがとうるか!!!またあげるからちょうだいね☆(笑)