しあん様から誕生日プレゼントに頂きました。 





今日は愛しの君との機嫌が、

端的にいうと中尉の機嫌が、すこぶる悪い。




「大佐。」
「な…なんだね。」
「この冊子は5時までにセントラルへ発送しますのでお早くお願いします。」
「あ、あぁ。」


そのせいというか何というか、話しかけられる度に畏縮してどもってしまう。(部下に畏縮する上司もいかがなものかという意見はこの際スルーする。)

反抗など、その兆しを見せた時点で中尉にざっくりと真っ二つにされてしまうために、もはや誰一人ただの一言も発さず、ついでにどこか俯きがちにひたすらとにかく早く今日のノルマを終えさせようと必死だ。


5時まで。
反芻しながら、ちらと時計を見やる。ただいま4時前。今ある山が4時半締め切り。
分刻みのスケジュールとはまさにこのことかと小さく溜め息を吐いた。


「日々の労働を怠るからこうなるんです。」


エスパーかね君は。

言いたくなるのを飲み込んで、止まっていた筆をまた進める。
ここのところ面倒ごとが多かったせいで、必要以上に書類が多い。


「中尉、」
「何ですか軍曹。」
「ノルマが終わったのでお先に失礼しますね」
「あら、流石ね。」


お疲れさま、という声が聞こえた。その声さえ聞こえぬ存ぜぬというように全員はペンを走らせる。


それから順にブレダ、ファルマン、ハボックとあがってゆく。最後に残ったのはやはりというか中尉と自分の2人だった。

かちこちという秒針の音が、皮肉にもペンの音と綺麗にハモる。最後の一束はただの惰性で仕上げた。


「中尉…」
「終わりましたか?」
「あぁ、終わった」
「お疲れさまです。」


ほぼ同時に時計を見た。
7時前。
怒涛のかいあってか、定時より前だ。久しぶりに軽い酒でも飲んで帰るのもいいかもしれないと、ぼんやり考えた私に中尉は爆弾を投下した。


「では大佐、すぐに着替えてください。」
「え?」


「本日最後の仕事は屋外です。」





イーストシティの冬は寒い。北の方ほどではないのは分かっているが、少なくともセントラルよりは寒いし、暗い。

中を、黙々と中尉の後ろについて歩く。

迷いを感じさせない、ピンと張った背中は少し離れただけで闇に埋もれてしまいそうで、高いの無言が生む沈黙で私はその背に昔の夢を垣間、見た。


「…大佐、」
「あ…、あぁ、何だね」
「この辺りは一人暮らしが多いんですが、ご覧の通りとても暗く、街灯を求める声が高いんです。」


犯罪率も当然高い。と、凛とした声はよく響いて届く。

軍の建物から出るときに頑として目的地を言わなかったのは、単に見回りが目的だったからなのかもしれないと思い至った。
が、しかし。


「大佐、着きましたよ」


のセリフで、それが間違った認識であることを悟る。

見たところただの一般民家のアパート。見覚えがあるようなないような、と。パラパラと脳内の事件データを洗ってゆく。

アパートの階段をかつりかつりと音を立てながら、やはり迷いなく上がってゆく中尉は、なにをさせたいのだろうか。


「さぁ、ここですよ。…大佐。」


見当というものが全くつかない。首を捻るばかりの私にかけられた声は、職務中の事が夢かと瞬時に思わせるくらいの優しそうなもの。


「…は、」
「ほら早く、開けてください。」


こちらを向いた中尉は酷く優しそうな、というよりは嬉しそうな顔をしている。
その理由が、私はドアの向こう側にあるのだとなんとなく知っていた。

かちゃりと無難な音を立ててドアが開く。


「Happy birthday 大佐!!」


とたんに鳴った弾けるような音と、それから火薬の匂い。
広いとはいえないものの、一人暮らしには十分なそこに紙吹雪やら紙テープやらが飛び散っていく。


「…、…は…?」
「ほら、やっぱり覚えてなかったでしょう?」
「さすが、中尉の読みは的確ッスね」

ハボックの返事にふふ、と真後ろで笑う声とドアの閉まる音に振り返る。悪戯の成功した子どものような、全員が同じ顔をしていた。


「10月30日。…お誕生日おめでとうございます、大佐。」
「…ここは?」
「フュリー軍曹のお宅です。」
「そうか…、…誕生日とは恐れ入った」
「なーに言ってンすか。」
「貴方にはまだ何度も誕生日を迎えて貰わないと困りますね。」


言外に、容易く死んでんじゃねぇぞというセリフが含まれているのがまざまざと分かって思わず息を吐く。
あまりの見事さに、まったく、と言いたいような気分にさせてくれる。


「だから早く仕上げて貰わなきゃ困ったんです。かといってこちらにも用意がありますから、それなりの量を。」
「…あれは演技というわけか。」
「日頃から培ってる連携プレーですよ、大佐。」
「はは。まったくもって私はいい部下を持ったものだ」
「いまさら分かったんですかー」
「いや、…ありがとう。」


この五つの眼差しの先にある期待に応えるまで、私は。





 いつか捨てたもの
(生きる希望)
(手に握りしめ二度と離すものかと誓う)






おまけ。

「…ということがあったんです、ヒューズ中佐。」
「リザちゃん冷たい!俺も呼んでよ!!」
「中佐は仕事をサボって来るからダメです。」



「…ということがあったのだよ、鋼の。」
「……てことは…大佐…30…?」
「そうだが何か」
(見えねぇええぇえ!!)
(兄さん!兄さんが考えることは分かるけど兄さんも大概だよ!!)
おしまい!





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しあんありがとぉおおお!!!誕生日プレゼントにいただきましたvvなんかもうマスタン組可愛すぎる……キュンキュンします。心がほっくほく!実は大佐のこと大好きな軍部が大好きです。そして最後にエドアルも出てきたのが嬉しかった!かわいい!!本当ありがとうしあん!またちょうだいね!(おまえ)