いつもは露わになっているうなじを、隠す金の細糸。 髪をあげているときは意識しないけれど、下ろすと意外な長さに驚くのは、いつものことだ。 髪を下ろした彼女は、いつもより少し優しい。 「どうしたんです、大佐」 いつもよりやわらかい声音が、いつもと同じように階級で自分を呼ぶ。これはいくら言ってもなかなか直らない、彼女と自分の根競べ。 「いや、君の髪を見ていた」 彼女は、少し呆れたような、不可思議そうな顔。 「触れても?」 許しを請うと、恥ずかしさを隠そうと、怒ったような声。 「わざわざ訊かなくても」 そんな彼女が見られるのも、彼女が髪を下ろしているときだけ。それが見たくてわざわざ訊くのもあるけれど、綺麗なものに触れることに、躊躇する自分がいるからというのもある。 彼女の髪の毛を梳くと、しなやかな金の糸はするりと逃げるように指から落ちた。 「髪を下ろしていると君は優しいから、この髪の成分は優しさなのかと考えていた」 常ならば凛とした瞳をまっすぐに向けてくる彼女は、少し伏し目がちに微笑う。 「そんないいものでできてませんよ」 戦場で再会した彼女が、再び笑えるようになることを、当時自分は信じられなかった。いくらでも笑って見せられる自分とは違って、彼女は不器用だから。 だが、自分も、本当に笑うことができるとは思っていなかった。小手先が器用なだけで、根の部分は彼女と変わりはしないから。 彼女は、髪が伸びるにつれて、少しずつ笑うようになった気がする。自分も、それに気づける自分を取り戻していった気がする。 「私には、この髪がとても尊いものに思えるよ」 髪の一筋を掴まえて、くちづける。彼女はくすぐったそうに笑う。 「我が女神」 くちづけたまま呟いた言葉は、彼女の耳には届かない。 「何て言ったんですか?」 「なんでもない」 彼女はきっと、否定するから。伝えはしない。 彼女が髪を伸ばしたのは、他人を、彼女自身を守るための強さを身につけていったからのような気がする。 彼女が髪を伸ばしたのは、人間らしさを取り戻すためのような気がする。 だから、彼女は、戦うときには髪を結う。 だから、彼女の髪は、自分にとってとても尊いものの象徴に思える。 「ただ、かわいいねって言っただけだ」 すぐに俯いた彼女の耳が、朱に染まる。 「大佐はすぐにそんなことを言いますね」 かわいいひと、やさしいひと、つよいひと、とうといひと。 彼女の強さに、優しさに、支えられている自分だけど。 彼女の強さを、優しさを、笑顔を、守れる強さが欲しい。 「大佐って呼ぶのはなしだ、リザ」 彼女の顔を上げさせると、やはり頬が赤い。 自分だけの女神の額に、祈るようにくちづけを落とした。
私の中の公式ロイアイになってるなっつんへ勝手に捧げます! 22:03:2010 残滓の遠海さんからいただきました!ロイアイ小説!! ギャー!とみーからロイアイ小説をいただける日が来るとは…!ものすごく嬉しいです! ドキドキ! 器用そうで実は不器用な二人が好き。すぐ冗談じみたことぶつけてくる大佐が好き…! 「触れても?」って確認しちゃう大佐に惚れます。 全体的に優しい空気が流れていて すごくいい気分になりました…。素敵…! 宝物にします。とみーありがとう!だいすき!! |